教育観
2026.07.25

「やりたいことは、何?」
そう聞かれて、すぐに答えられる子は、いまどれくらいいるだろうか。
塾の面談でも、進路の三者面談でも、この問いは必ず出てくる。けれど返ってくるのは、たいてい沈黙か、「特にないです」の一言である。
これは、その子のやる気の問題ではない。もっと手前に、理由がある。
忙しい。そして、よく頑張っている
いまの子どもたちは、本当に忙しい。学校があって、部活があって、塾があって、習い事がある。放課後の予定が空いている日のほうが少ない、という家庭も珍しくない。
そして、その予定を、彼らはきちんとこなしている。宿題を出し、テストを受け、試合に出て、発表会に立つ。やりたいことを我慢して努力できるというのは、それ自体がすごいことである。ここを否定するつもりはない。

やることが無くなった瞬間に、止まる
問題が表に出るのは、予定が空いたときである。
長期休暇に入る。受験が終わる。部活を引退する。やらなければいけないことが一時的に消える瞬間は、誰にでも来る。
そこで「もう好きにしていいよ」と言われて、動けなくなる子がいる。何をやりたいのか、わからない。結局スマホを見て一日が終わる。あるいは、「何やればいい?」と、また誰かに聞いてしまう。
なぜ、感覚が鈍るのか
使わない感覚は、鈍っていく。理由は、それだけである。
「これがやりたい」と口に出したときに、「そんなの、将来の役に立たないよ」と返ってくる。子どもたちから、よく耳にする話である。返した側に悪気はない。心配だからこそ出た言葉である。
けれど、言われた側は学習する。言っても通らないなら、言わないほうが早い。そうやって口に出す回数が減っていくうちに、やがて自分でも、何がやりたかったのかを思い出せなくなる。
これは怠けではない。むしろ、置かれた環境に合理的に適応した結果である。だから、「やる気を出しなさい」という言葉が届きにくい。やる気の問題ではないところで、起きていることだからである。
探究ラボでは、どうしているか
to the Best. では、教えることから始めない。まず、その子の「やりたい」を引き出すところから始める。
具体的には、身のまわりの「なんで?」を書き出すところからである。壮大な夢である必要はない。「なんで駅の案内はこんなに分かりにくいんだろう」でいい。むしろ、そういう小さな違和感のほうが、本人の中では長く続く。
そのうえで、実現する力をつけていく。やりたいことだけやっていては、また周りに止められてしまうからである。なぜやりたいのかを説明する力。頭の中にあるものを、目に見えるカタチにする力。この二つがそろって初めて、「やりたい」は通る。
AIは、そのための道具である。かつては何年もの技術習得が必要だったことを飛び越えて、思いついたその手でカタチにできる。速く進めて、遠くまで行けて、仕上がりも想像以上になる。入り口としてAIを使うのは、「やりたい」と「できた」の距離を、いちばん短くできるからである。
まず、聞くのをやめてみる
ご家庭でできることを一つだけ挙げるなら、「何がやりたいの?」と聞くのを、しばらくやめてみることである。
この問いは、答えを持っている子には入口になるが、持っていない子には宿題として響く。かわりに、予定の入っていない時間を、意図的につくってみてほしい。
最初は退屈するはずである。その退屈が、しばらく続いたあとに、何かが出てくる。
出てこなければ、一緒に探せばいい。私たちがやっているのは、まさにそこである。
文=石黒 香織(代表)
to the Best. | AI探究ラボ
東京・杉並 / 小学5年〜高校3年 / 定員6名