AIと学び
AIは、いつから学ばせればいいのか

初任給100万円と、過去最高益の銀行が採用を減らした、2026年夏
「AIは、いつから学ばせればいいですか」
保護者の方からよく出る質問である。中学生になったら。高校生になったら。受験が終わったら。だいたい、そのような答えを期待して聞かれているのだろうと思う。
この夏、その質問への答えが、二つのニュースの形で出た。
同じ夏に、逆を向いた二つのことが起きた
一つは、不動産の霞ヶ関キャピタルが、2027年4月入社の新卒から初任給を月100万円にすると発表したことである。年収にして1400万円前後。約1300人が応募し、内定はおよそ10人だった※1。日本経済新聞の見出しは「『才能』を採用」で、AIや起業に秀でた人材を対象としている※2。
もう一つは、銀行の2027年度の新卒採用が、5年ぶりに減ることである。理由はAIによる業務の効率化だと報じられている※3。
見落としてはいけないのは、銀行の業績が苦しいから減らすのではないことだ。三菱・三井・みずほの3メガバンクの2026年3月期の純利益は、合計で初めて5兆円を超え、過去最高を記録した※4。三菱UFJフィナンシャル・グループは、2026年7月に時価総額42兆円でトヨタ自動車を抜き、国内首位に立っている※5。金融機関が首位に立つのは、バブル崩壊後で初めてである。
過去最高益を出し、時価総額で国内首位に立った業界が、新卒の採用を減らす。 これが、いま起きていることだ。
年齢は関係ない。代替できるなら人数も要らない
AIを使って付加価値を創出できる人間は、年齢に関係なく評価する。AIで代替できる仕事は、業績がよくても人数を減らす。 二社が同時に示したのは、この事実である。
AIが代替できる範囲は、広がり続ける。今日できないことが半年後にはできる速度で、境界線は動いている。いま代替されない側に見える仕事が、五年後も同じ位置にある保証はない。
では、その力はどこで身についたのか
ここで、確かめておきたいことがある。月100万円の内定を取った約10人は、いつその力を身につけたのか。学生時代である。学生のうちに問いを立て、AIでカタチにし、それを自らの実績として積み上げてきた。だから、社会に出る前の時点で評価された。
似た光景を、以前にも見たことがある。武蔵野美術大学の大学院にいたころ、海外から来ていた学部生たちである。まだ10代の彼らは、常に何かを考え、手を動かし続けていた。課題が出たから動くのではない。気になったことがあるから動いて、できたものを人に見せて、また直していた。
はじめは、才能の差だと思っていたが、違った。彼らは、問われ続ける環境にいただけである。 何をつくりたいのか、なぜそれなのか。教員からも、同級生からも、日常的に訊かれる。訊かれ続ければ、やがて自分で訊くようになる。日本の10代にその環境がないのは、本人の資質の問題ではない。そういう場が、用意されていないだけである。
その場は、年齢が上がれば現れるというものでもない。大学・大学院まで含めても、そこを通る学生はごく少数である。学校が悪いのではない。カリキュラムに、そもそもその項目がないのである。
「トップ層の話でしょう」は、通らない
この話をすると、「うちの子はトップ層を目指すわけではないから、関係ない。」という反論をいただくことがあるが、その反論は通らない。理由は単純で、他の会社が置かれている状況も、まったく同じだからである。
AIで代替できる業務が増えれば、どの会社も同じ計算をする。この評価の仕方が他社に広がらないと考えるほうが、不自然である。
証拠はすでに出ている。トップ層の学生をいちばん大量に採り続けてきた銀行が、採用を減らす側に舵を切った。入口がもっとも広かった業界から、先に狭くなり始めている。
大学入試の総合型選抜や、高校入試の推薦で広がってきた「点数よりも、考えた過程と実績を見る」という評価は、新卒採用市場にも来る。いや、もう来ている。

若手が、ベテランを追い越し始めている
私自身、社内外で採用と人材育成に携わり、多くの新卒と若手を見てきた。AIが台頭してから目にしたのは、一部の領域で、AIを使いこなす若手が中堅・ベテランの生産性を超えていく光景である。
これまで中堅・ベテランの価値は、経験から積み上げた知にあった。ところがAIは、知識をすでに備えている。それも、人間では蓄えきれないほどに。ロジックの組み立ても人間より速く、抜けが少ない。おまけに24時間、疲れを知らずに働く。これを生身の人間が単独で上回るのは、至難の業である。
経験の量で差がつく時代が、終わろうとしている。年齢や社歴が武器にならない場所では、若さは不利にならない。
AI探究ラボでは、どうしているか
to the Best.|AI探究ラボが重きを置いているのは、AIの使い方ではない。自分で問いを立てることである。
道具の使い方は、必要になった時点で教えれば足りる。順序を逆にすると、AIで何ができるかは覚えても、何をしたいかがないまま終わる。
AIは道具として使う。かつては何年もの技術習得が必要だったことを飛び越えて、思いついたその手でカタチにできる。速く進めて、遠くまで行けて、仕上がりも想像以上になる。「やりたい」と「できた」の距離を、いちばん短くできるからである。
育てるのは三つの力である。問いを立てる力(Thinking)、道具を使いこなす力(Technology)、カタチにする力(Building)。この三つの力を6回1サイクルで育てる設計をTTBモデルと呼んでいる。
進め方は、1クラス6名で、1サイクル6回。1回目と3回目は、全員に向けて教える回にあてる。1回目は社会でいま何が変わりつつあるのかを扱い、3回目は考える道具を渡す。残りの4回は、一人ずつの過程を見る時間である。答えは示さない。「で、どうやる?」と訊いて、詰まったところを一緒にほどく。
90分のうち最低40分は、自分の制作にあてる。教わる時間より、手を動かす時間のほうを長く取っている。1サイクルまわるごとに、成果物が1つ残る。
これを何周も通した先に育つのが、人を動かす力である。これは二つでできている。なぜやりたいのかを、相手に分かる言葉で説明できること。そして、頭の中にあるものを、相手が見て確かめられる形にして差し出せること。言葉だけでは足りない。モノだけでも足りない。二つ揃ったときに、初めて人は動く。 単に口が上手くなることではない。
本当に学んでほしいのは、AIではない
タイトルに「AIは、いつから学ばせればいいのか」と書いた。けれど、子どもたちに本当に学んでほしいのはAIではない。生き方である。
問いを立て、カタチにし、人前で話し、反応を受け取って、また立て直す。この一連の体験そのもの。そして、それを何周も積み上げた先に残る、経験に裏打ちされたスキルと思考法、そしてマインドである。
そこまで来た子は、進路の選び方が変わる。就職するのか、進学するのか、それとも自分で起こすのか。選べる側に立てる。
AIの使い方は、半年後には変わる可能性がある。しかし、積み上げた実績とスキル、そして自信は変わらない。
冒頭の質問に答える。いつ学ばせるかではない。いま始めるかどうかである。
文=石黒 大洋(創業者)
脚注
※1 テレビ朝日系(ANN)「『初任給月額100万円』に応募1300人 不動産コンサル会社 すでに10人が内定」(2026年8月)
※2 日本経済新聞「霞ヶ関キャピタル『才能』を採用、初任給100万円 AIや起業、秀でた10人」(2026年8月)/同「初任給は月100万円、不動産の霞ヶ関キャピタル 27年4月新卒から」(2026年7月)
※3 日本経済新聞「銀行新卒採用、来年度5年ぶり減 AIで業務効率化 売り手市場に転機」(2026年8月)
※4 時事通信「3メガ銀の純利益、初の5兆円超え 金利上昇で過去最高――26年3月期」(2026年5月15日)
※5 日本経済新聞「三菱UFJFG、時価総額42兆円で初の首位に 金融機関でバブル後初」(2026年7月)